著作権法と判例の確認
この話
- http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111219-OYT1T01337.htm
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- エラー
- 2011-12-22
- 「スキャン代行」はなぜいけない? (1/3) - ITmedia eBook USER
- http://news.nicovideo.jp/watch/nw168082
いろいろと言いたい事はありますが、とりあえず現行法でどう解釈するべきか、司法がどう解釈するであるか、を一度整理してみようかなと。
なお、以下は私自身の私見ではありますが、そのベースは著作権法と判例にあります。
- http://www.cric.or.jp/db/article/a1.html
- http://www.cric.or.jp/houkoku/s56_6/s56_6.html
- 判例:企業の内部的利用と「私的使用」
- カラオケ法理 - Wikipedia
反論はウェルカムですが、最低限リンク先に書いてある事ではわからない所を突っ込んでください。書いてある物を繰り返すのは、無駄ですから。
もう一つ。
今回の裁判はあくまでも現行法での問題となります。つまり、法律の解釈論です。
スラドに現在進行形の文化審議会へ出された意見をもって反論を行っているスレッドがありますが、審議会で行われているのは「法律はどうあるべきか」と言う「立法論」です。
現在行うべきは「現行法に照らし合わせて、適法な行為と言えるか」という「解釈論」ですので、ここもまた勘違いしないでください。
指示主体が本人なのだから、と言うのは、少なくとも本文では反論になりません。
私的複製は「権利」か?
まず最初にここを取り上げます。これを勘違いしてる人も多いので。
今回の話ですが、私的複製と言うのがキーとなります。全てがここの法的解釈に繋がってきます。
最初に答えを書きますが、消費者に「私的複製権」と言う「権利が認められている」訳ではありません。
「私的複製」と言うのは、著作権法第三十条にあるもので、この条文がある項目は「第五款 著作権の制限」とあるように「権利者に対しての制限」です。
つまり
私的複製権で守られているから行って良い(消費者の権利として守られている)
ではなく
権利侵害ではあるが消費者の利便性のため侵害と認めない(著作権の権利利用ではあるが、侵害行為とは認めない)
と解釈されるものです。「著作権の権利侵害行為(著作権権利者以外の権利利用は、権利侵害に当たる)」がまず存在し、その上で「権利制限としてその侵害を許可する」です。
こういう法律の構成のため、日本の著作権法においては
『第五款 著作権の制限』に列挙された行為、以外は全て黒
と言う解釈になります。
このため、アメリカなどで行われている「フェアユース」と言う考えが無いとされるわけです。*1
ここに勘違いがあると、「複製は消費者の権利だ!」「そんな権利なぞ無い!」で終わるので注意してください。
消費者に複製権があるから私的利用は問題無いとされるわけではないのです。
私的複製が成立する条件
次に、私的複製が成立する条件について詰めていきます。
第五款 著作権の制限
(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
見ての通りと言うしか無いのですが、
- 個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)
- その使用する者が複製することができる
この2点が成立条件であり、重要な点です。
ではその解釈はどのように司法判断が行われているのでしょうか?
過去の審議会でここの解釈については
そこで、以上の趣旨を踏まえ、改めて法第30条の解釈を説明することとする。まず第一に、複製できる者(複製主体)については、「使用する者が複製することができる」と規定し、複製主体を使用者本人に限定している。もっとも家庭内においては、例えば、親の言い付けに従ってその子が複製する場合のように、その複製行為が実質的には本人(親)の手足としてなされているときは、当該使用する者(親)による複製として評価することができる。しかしながら、いわゆる音のコピー業者のような複製を業とする者に依頼する複製は、この要件に該当しないものと解する。
http://www.cric.or.jp/houkoku/s56_6/s56_6.html
とあり、現在に至るまで概ねこの判断で行われています。
今回のように「代行業者」と言うのはこの時点で「2」の要件に当てはまらず、従って「著作権権利者への権利制限の範囲外」と判断するしかなく、よって「違法である」と判断出来るわけです。
複製の指示「主体」は著作物を持っている人だから問題無いと言う意見
代行業者に対して「指示」してる人は著作物を持っている人なんだから、「使用する者の複製」と見なせるのではないか、と言う意見もありました。
しかし、これについてはすでに上で引用したように
しかしながら、いわゆる音のコピー業者のような複製を業とする者に依頼する複製は、この要件に該当しないものと解する。
http://www.cric.or.jp/houkoku/s56_6/s56_6.html
に、まま、当てはまるわけで(本のコピー業者という複製を業とする者に依頼する複製)、権利制限の外と判断できます。
これについては、完全なピンポイントとは言えませんが、カラオケ法理が判例と言えます。カラオケ法理において重要なのは
- 機器を設置しているのは業者である
- 利用者は機器を利用するだけである
- 機器の利用において利益を上げている
と言う、
- 著作物の使用は利用者
であっても、
- 著作物を利用するための機器の所持者は業者
である場合には、業者もその「利用主体になる」と言う物です。
自炊業者の場合は、「著作物の複製を行う者」もまた業者であるわけで、カラオケ法理より更に業者側に利用主体が移っています。
従って、過去の判例においても、審議会の考えの通りの判決が出ていると言えるわけです。
そしてもう一つ。
「使用する者」の解釈ですが、審議会の引用にあるように「個人的又は家族その他これに準ずる範囲」の者が代行する場合でなければ、「使用する者」として認められません。
自炊代行業者は、この範囲では無い事もまた、侵害と判断する理由となり得ます。
各種複製への権利制限について
以降は些末な枝葉について。本論とは限りなく関係無くなっていきます。
もっとも、「的外れなコメント」については、こっちが本論かもしれない……
いろんな所のコメントを見てるのですが、「複製」と言う事で次を持ち出している事例があります。
この辺りです。
この辺りについては
- 図書館における複製
- 著作権法第三十一条
- 点字における複製
- 同法第三七条(業者による複製は制限付きであり)
- 音読における複製
- 同法第三十七条の二(業者による複製は制限付きであり)
- 学校教育における複製
- 同法第三十五条
と、それぞれに権利制限の項目があるため、今回の事例での「問題無いだろう」の反論にはなりません。許諾されている理由が「法律にきちんと書かれているから」で済む事ですから。
デジタルコピーの問題
「自炊」と言う事で、著作物の「デジタルコピー自体」が問題にならないか?と言うものがあります。公衆送信権など、インターネットが出た後や、音楽、TVなどでの「デジタルコピー」がいろいろと取りざたされているため、こう考える事自体は不思議ではありません。
これについては私も疑問に思いました。
と言う事で調べた所、
(電子計算機における著作物の利用に伴う複製)
第四十七条の八 電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)には、当該著作物は、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録することができる。(平二一法五三・追加)
http://www.cric.or.jp/db/fr/a1_index.html
とあるため、「私的複製の範囲内」であれば、「個人が自分で自炊する場合」は著作権の権利制限の内となります。
つまり、今回の提訴での話にもありましたが「個人が自分で自炊する事」は全く問題になりません。このため、「自炊」自体を裁判の対象にはしなかったわけです。
第三十条 一 にある公衆使用の自動複製機器の問題
ここに突っ込んでる人もちらほら見受けられました。第三十条 一 を引用。
一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
http://www.cric.or.jp/db/fr/a1_index.html
このため、代行業者は「公衆の使用に供する自動複製機器を用いている、から、第三十条の範囲外になる」。
しかしこれには続きがあります。
著作権法にはには附則(抄)がありまして、この中
(自動複製機器についての経過措置)
第五条の二 著作権法第三十条第一項第一号及び第百十九条第二項第二号の規定の適用については、当分の間、これらの規定に規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする。(昭五九法四六・追加、平四法一〇六・一部改正、平十一法七七・一部改正、平十八法一二一・一部改正)
http://www.cric.or.jp/db/fr/a1_index.html
と言う事で、「専ら文書又は図画の複製に供するもの」である
- コンビニとかで使えるコピー機
- レンタルなどでのスキャナ
など、公衆の使用に供するものであっても、権利制限の範囲の内になります。
よって、この項目を用いて「違法」と言う判断は出来ないと言う事になります。
裁断のみなら問題無い?
本の裁断においては、特に問題になりません。
本の裁断と言うのは、「個人の所有物を破壊する行為」と言えます。
ここで「本の所有権」と言うのを考えると、それは「利用者」です。著作権者ではありません。
従って、「本の裁断に業者を使用する事」においては、利用者と業者間の契約となるため、問題となりません。
スキャナ+裁断ツールのレンタルは問題無いのか?
まず、裁断ツールについては「本」と言う所有物を利用者がどうしようと問題無いため、レンタル品を使う事に問題はありません。
次にスキャナについてですが、残念ながら「レンタル」と言う事で「不特定多数の使用に供する機器」と判断されます。
しかしこれについては2点でもって問題無いとされます。
一つは、すでにあげた
専ら文書又は図画の複製に供するもの
です。
もう一つは
次に、複製の手段である複製機器は使用者がこれを保有していなければならないのかどうかという問題がある。このことについて、条文上その要否は必ずしも明らかとはいえないが、本条は、使用する者が自ら行う複製行為を許容したものであることから、本条の趣旨として自己の支配下にある複製機器によるべきことが要請されているものと解する。したがって、自己の所有している機器の場合はもとより、継続的使用を目的として借りている機器については、自己の支配下にある機器と考えることができるが、他人の設置したコイン式複写機器による複製のような場合において、これを自己の支配下にある機器によるものと認めることについては消極的に解せざるを得ないところである。
http://www.cric.or.jp/houkoku/s56_6/s56_6.html
にあるように、レンタルの場合は「継続的使用を目的として借りている機器」とは言い難い部分がありますが(短期間での返還のため)、少なくともレンタルで借りている状態であれば「自己の支配下にある機器」と考える事に問題は無いと判断するのが、妥当と考えられます。
裁断本を販売する行為
残った問題として、裁断本を販売する行為があります。
今回の会見でも「裁断本がオークションに出されるのが見てられない」など。
これについての問題は二段階になりまして
- 本を裁断する事
- 裁断した本を譲渡(又は販売)する事
と分けて考える必要があります。
まず、「本を裁断する事」自体は全く問題にならない事は、すでに述べた通りです。
しかし、「裁断した本を譲渡(又は販売)する事」については、問題無い……と言えるだけの勉強がまだ足りていない事を記しておきます。
つーか、個人的にはこれ問題ありそうな気がするんですよね……本を裁断する理由とは何か? そして裁断した本を売るとは?
法律論としてまとめる事が出来ないので、違法か違法で無いかどちらとも断言出来ませんが。
という事で、これについてはお茶を濁したまま、論を終了します。
裁断本の販売(オークション)については、気が向いたら調べ倒してみます。