外国人参政権と憲法判断

本当は書くべきじゃないのはわかっている。賛成派に理を与えるだけなので。
しかし、最高裁判決は何を言っていたのかをきちんと理解しないと、勘違いしたまま「憲法違反だ」と唱えるだけじゃ、逆に足を引っ張るだけなので、あえて記する。
本当はやりたくない(TT)


外国人(地方)参政権について、「憲法違反だ」と言う言論がいくつか出てるけど、最高裁判決にそのような事例は存在していないはず。私も専門じゃないので網羅してるわけじゃないが、少なくとも見聞きして調べた範囲では、観測していない。
で、現在「違憲だ」と言う意見に使われている最高裁判決は、もっぱらこれ。

まずはここまで。


で、本日のいろいろとのニュース類。

いくつかで「憲法違反」について触れられてる。

最高裁判決の読み込み

では、ここからは私が「憲法違反と言う判例は出ていない」と判断している理由を説明する。


まず最初に重要なのは、『H07.02.28最高裁判例(選挙人名簿不登録処分に対する異議の申出却下決定取消)』は何を「訴えて」、どういう「判決」になったのか。

訴え
(私、vid の解釈)外国人(この場合の原告は大韓民国国籍人)が地方参政権(選挙権)を得られない(選挙人名簿不登録)のは、憲法違反である
判決
原告らの請求をいずれも棄却する(地方)。本件上告を棄却する(最高裁)。

まずはここを押さえておいてください。
『判決』として出されたのは、「参政権が無い=憲法違反だ」に対して「却下する(憲法違反ではない)」です。まずはこれが「確定事項」です。


今現在、民主党が進めようとしているのは、こうではありません。

と言う法律です。これに対しては「憲法違反である」と言う判決は出ていません。
参政権がある=憲法違反」と言うのは、前述の裁判の『論理学で言う裏』であって、『論理学で言う対偶』ではありません。よって、真であることは保障されていません。
つまりは『最高裁判所憲法違反であると言う判例がある』と言うのは、『言えない』のです。


この点は、外国人参政権反対を叫ぶ時に十分に注意すべき点です。
憲法違反と言う判例が出ていない以上、立案=問題とは言えないのです。
したがって反対の立場を取るのであれば、『立法する場合の問題』で攻めるしかないのです。
非常に悔しいのですが、この最初の一歩を間違えると、賛成派に勢いを与えることになりかねないので、反論の論理構成は十分に注意する必要があります。

最高裁判決の読み込み2

と言うことで、前述までの部分で「違憲と言う判断は出ていない」事を論じました。
ここから先は、では「最高裁判所の判決」で『何が示されたか』です。
えーと、裁判所判例それ自体には著作権は及ばない

(権利の目的とならない著作物)
十三条 次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
 三 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの

http://www.cric.or.jp/db/article/a1.html

ので、判決の理由部分をすべて引用。

  1. 憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものである。そこで、憲法15条1項にいう公務員を選定罷免する権利の保障が我が国に在留する外国人に対しても及ぶものと解すべきか否かについて考えると、憲法の右規定は、国民主権の原理に基づき、公務員の終局的任免権が国民に存することを表明したものにほかならないところ、主権が「日本国民」に存するものとする憲法前文及び1条の規定に照らせば、憲法国民主権の原理における国民とは、日本国民すなわち我が国の国籍を有する者を意味することは明らかである。そうとすれば、公務員を選定罷免する権利を保障した憲法15条1項の規定は、権利の性質上日本国民のみをその対象とし、右規定による権利の保障は、我が国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。そして、地方自治について定める憲法第8章は、93条2項において、地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙するものと規定しているのであるが、前記の国民主権の原理及びこれに基づく憲法15条1項の規定の趣旨に鑑み、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を成すものであることをも併せ考えると、憲法93条2項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。以上のように解すべきことは、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和35年(オ)第579号同年12月14日判決・民集14巻14号3037頁、最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日判決・民集32巻7号1223頁)の趣旨に徴して明らかである。
  2. このように、憲法93条2項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものとはいえないが、憲法第8章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない。以上のように解すべきことは、当裁判所大法廷判決(前掲昭和35年12月14日判決、最高裁昭和37年(あ)第900号同38年3月27日判決・刑集17巻2号121頁、最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日判決・民集30巻3号223頁、最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日判決・民集37巻3号345頁)の趣旨に徴して明らかである。
  3. 以上検討したところによれば、地方公共団体の長及びその議会の議員の選挙の権利を日本国民たる住民に限るものとした地方自治法11条、18条、公職選挙法9条2項の各規定が憲法15条1項、93条2項に違反するものということはできず、その他本件各決定を維持すべきものとした原審の判断に憲法の右各規定の解釈の誤りがあるということもできない。所論は、地方自治法11条、18条、公職選挙法9条2項の各規定に憲法14条違反があり、そうでないとしても本件各決定を維持すべきものとした原審の判断に憲法14条及び右各法令の解釈の誤りがある旨の主張をもしているところ、右主張は、いずれも実質において憲法15条1項、93条2項の解釈の誤りをいうに帰するものであって、右主張に理由がないことは既に述べたとおりである。
  4. 以上によれば、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
  5. よって、行政事件訴訟法7条、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

これを分解すると、こういう構図になっています。

  1. 外国人に地方参政権憲法保障は無い(理由1)
    1. 憲法に保障された地方自治の「住人」とは「国民」と解釈するのが相当である
    2. よって外国人に対して地方自治参政権を与えるとは憲法には書いていない
    3. つまり憲法で保障したものではない
  2. 外国人に地方参政権を与えていないのは憲法違反ではない(理由2)
    1. 理由1に示したとおり憲法で保障していない
    2. しかし参政権を与えることもまた憲法で禁止していない
    3. 外国人に参政権を与えるかどうかは国の立法政策の問題であるので、与えていないことを違憲とは言えない
  3. 理由1、2より外国人に地方参政権を認めていないのは、憲法違反とは言えない(結論:本論)

4、5は特に何かを言ってるわけではないので割愛

私も勘違いしていたのですが、判例の主文として力を持つのはあくまでも「結論」の部分……『外国人に地方参政権を認めていないのは憲法違反とは言えない』だけであって、理由1も理由2も等しく『裁判所が考えた思考の筋道』でしかありません。したがって、傍論と言う意味では等しいです。
で、傍論で述べた判断材料になりそうなものが以下。

  • 憲法で保障してある地方参政権を得られる「住人」とは「国民」と解するのが妥当(理由1より)
  • 外国人に地方参政権を与えることを憲法では禁止していない(理由2より)

以上の二点。


反対派の皆様、間違えないでください。
外国人参政権は「違憲である」と言う最高裁判断はどこにもありません。どころか「憲法で禁止していない」と言うのが最高裁判断です。
だから、賛成派なんかが居るのです。


繰り返します。
最高裁の考察として示されている内容は以下の流れです。

外国人地方参政権憲法保証ではない。
しかし外国人地方参政権を立法で認めたところで憲法違反ではない。
(私、vid の意訳)

そしてこれはいずれも「傍論」に当たる部分です。
本論はこうです。

地方選挙権を外国人に与えていないことは、憲法違反(93-2,15-1違反)ではない。
法の下の平等憲法14条)については、そもそも憲法違反である事が前提になるので、主張に理由が無い。
(私、vid の意訳)


裁判所の論理構成を見る限り、「住人」=「国民」(理由1)の部分についてのみ、結論にかかっていると解する事も可能と思えますが(3段目が「検討したけど憲法保障は無いから却下するよ」と言う構成なので)、言えるのはそこまでです。

まとめ

以上。
私も外国人参政権には反対です。
しかし、裁判所は、外国人参政権を与えるかどうかは「国家の立法で決めるもんだ」と言う突き放しです。
だからこそ、反対の意見を正しく構築するために、特に法律や判例の解釈に間違いがあると問題だと考えます。


本来、今回のような中身を書くのは、賛成派に利する行為なのでやりたくないです。
しかし、それ以上に反対派の「間違い」がはびこることが問題なのです。私も間違えていました。


外国人参政権に対して「違憲である」と言う判断を最高裁は行っていません。


反対派の皆様。少なくとも、この1点に関してはきちんと現状を認識してください。よろしくお願いします。

おまけ

外国人参政権は「憲法保証」ではありません。少なくともここだけは確定していると見てもいいでしょう。
ですので、もしも「立法」されたとしても、後に法律を削除することも可能だとは思われます。少なくとも裁判所の論理構成を見ても、法律削除=憲法違反の判断は下せないように考えられます。
ここが最悪の場合の最後のよりどころだと思われます。非常に難しいですけどね。
これを使わなければならない状況にならなきゃいいんですけどね……