外国人参政権と憲法判断 その2

さてと。昨日( d:id:vid:20100113 )は過去の最高裁判決から「違法と言う判断は出ていない」と言うことを書いた。
で、ニュースをもう一度読み直していて、違法の可能性についての話、私が一部取り違えていたのを確認したので、今日はそこを考えてみる。


今日は、憲法側から「外国人参政権違憲可能性」を考える。


http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100111/plc1001111940005-n1.htm

 憲法15条第1項は参政権を「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」とする。地方参政権付与は国民主権の根幹をなす15条違反の疑いが強い。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100111/plc1001111940005-n1.htm

http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100113/stt1001130744002-n1.htm

 ■憲法違反の疑いが濃厚 中国籍者が問題複雑化 
 永住外国人への地方参政権付与は平成7年2月、在日韓国人に地方選挙権を求める訴訟に対する最高裁判決で、判例としての拘束力を持たない傍論に「地方選挙権の付与は禁止されない」と記されたことで、推進論が活発化した。
 だが、この判決の本論部分は異なる。憲法15条が定める選挙権について「わが国に在留する外国人に及ばない」と判断し、93条で地方参政権を持つと定められる「住民」についても「日本国民を意味する」と訴えを退けている。全体をみれば、外国人参政権憲法違反である疑いは濃厚だ。

http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100113/stt1001130744002-n1.htm


まず基本となる憲法15条。

第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM

ここに確実に「国民固有の権利」と書いてある。
次に地方自治の項目

第93条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM


裁判は何を争ったのかをもう一度振り返る。
定住外国人地方選挙権訴訟 第一審判決

訴え
憲法に言う「国民」とは憲法前文を読めばその土地の定住者を指すと解するのが妥当。したがって憲法93条の「住人」も同様に解するのが妥当。よって憲法15条規定により外国国籍であっても地方参政権を得られるのが妥当であり、選挙人名簿からの削除は憲法違反である
最高裁判決
93条の「住人」は15条の「国民」と解するのが相当。地方参政権を日本国民に限定した法律は憲法違反とはいえない。よって原審の判断に憲法解釈の誤りがあるとはいえない。主文:本件上告を棄却する。

最高裁の本論としては、「“外国人に参政権を与えていない事(訴え)”は“憲法違反ではない(本論)”」です。


ここで、地方裁判所の理由を見てみます。

二 本案について
1 各国の立法の状況
[20] (書証番号略)によると、次の事実が認められる。
[21](一) 今日、国家レベルの選挙権を、一定期間の居住要件のみで、外国人に認めている国は存しない。
[22](二) 地方自治体レベルの選挙権を、一定期間の居住要件のみで、外国人に認めている国としては、スウェーデンデンマークノルウェー、オランダ、アイルランド等がある。これに対し、アメリカ合衆国、フランス、イタリア、ベルギー、ルクセンブルグ等では、地方自治体レベルの選挙権を外国人に認めていない。旧西ドイツでは、一部の州で、自治体レベルの選挙権をドイツ国籍を有しない外国人に認める立法がされたところ、1990年10月31日、ドイツの連邦憲法裁判所は、右立法は、基本法に反し、無効であるとの判決をした。なお、ドイツは、国籍について、血統主義を採用している。

2 憲法15条の「国民」について
[23](一) 日本国憲法前文は、国民主権の原理は、「人類普遍の原理」であり、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において名誉ある地位を占めたいと思う。」、「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等の関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。」と述べており、国民主権、平和主義、国際協調主義等の憲法の基本原理を明らかにしている。しかしながら、日本国憲法前文は、右の基本原理を明らかにしたにとどまり、そのことから、直ちに、地球上にいる人は、どこか一箇所で、自分の属する地域の政治に参加すべきであり、右の「どこか一箇所」とは、その人が定住している地域でなければならないとの原則が導きだされるものではなく、前記認定の各国の立法の状況からみても、そのような原則が、国際的に一般に承認されているものとも認められない。したがって、右原則の存在することを前提として、憲法15条の「国民」には、当然に日本国内における定住者が含まれることになるとの原告らの主張を採用することはできない。
[24](二) 憲法15条1項は、基本的人権の1つとして、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と定めているが、基本的人権の保障は、権利の性質上、日本国民のみをその対象としているものを除き、日本国内に居住する外国人にも及ぶものであることはいうまでもない(最高裁昭和53年10月4日判決・民集32巻7号1223頁参照)。
[25] ところで、右公務員を選定し、これを罷免する権利(参政権)は、他の基本的人権のように、人が人として生まれた以上、何人といえども当然にこれを保障されるものとは、権利の性質を異にする。すなわち、参政権は、それが成立するためには、まず国家の存在することがその前提として必要であり、右国家の政治に参加する権利(及び義務)は、その権利の性質からして、その国家を構成する者に当然帰属すべきものである。
[26] したがって、参政権を保障されるためには、その者が国家を構成する一員であることが必要というべきであるが、現実に右国家を構成する者のうち、どの範囲の者にこれを与えるか、また、右権利を行使する形式をどのようなものにするかなど、右権利の具体的内容は、正に国家の基本法である憲法において決められるべきことである。
[27] そこで、日本国憲法の規定を見るに、右のとおり、憲法15条1項は、公務員を選定罷免することは、「国民」固有の権利であるとしているところ、これは、前記(一)で述べたとおり、憲法の基本原理の一つである国民主権の原理に基づくものであるが、他方、憲法10条は、「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」と規定して、具体的にどの範囲の者を「国民」とするか、その要件については法律に委ねており、これを受けて、国籍法が日本国民たる要件を定めている。もちろん、法律である国籍法において、日本国民たる要件を全く自由に定めることができるものではなく、それは憲法の各条項及び基本原理と調和するものでなければならないが、現行の血統主義を基本とする国籍法には、憲法の各条項及び基本原理と調和しない点があると認めることはできない。
[28] 以上によれば、憲法15条1項により参政権を保障されているのは、「国民」、すなわち「日本国籍を有する者」に限られるのであり、右以外の者、例えば定住外国人には、憲法上、公務員を選定、罷免する権利、すなわち参政権は認められていないというほかはない。

3 憲法93条2項所定の「住民」概念
[29] 憲法93条2項は、地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の「住民」が、直接これを選挙する、と規定しているところ、右地方公共団体についての選挙権も、国民主権の原理に基づくもので、憲法15条の「国民」が選挙する公務員には、地方公共団体の長等の地方公共団体の公務員も含まれていると解されること、地方公共団体も国から全く独立して存在するものではなく、地方公共団体の政治、行政は、国の政治、行政と互いに関連しており、地方公共団体が国の事務を処理することもあることからすると、憲法93条2項所定の「住民」を、憲法15条の「国民」とは別個の概念としてとらえるのは適切ではなく、これを統一的に理解すべきであり、結局、憲法93条2項が「住民」の文言を使用しているのは、地方公共団体の公務員については、特にその地域に居住する者により直接選出されるものであることを明らかにするためであると解するのが相当であって、憲法93条2項の「住民」は、日本「国民」であることがその前提となっているというべきである。

4 憲法上、地方公共団体についての選挙権を保障されている者
[30] 右2、3で述べたところからすると、日本国民、すなわち日本国籍を有する者については、憲法で、地方公共団体についての選挙権が保障されているということができるが、日本国籍を有しない定住外国人については、右権利を憲法が保障していると認めることはできない。
[31] 確かに、日本国民と同じようにその地域社会の重要な構成員として、これを維持発展させるのに大きな貢献をしてきたと自負している定住外国人にとって、国益を巡って諸外国と利害が対立する場合に、日本の国家意思を確定し、これに基づき諸外国との外交を直接担当しなければならない国政、すなわち政府レベルの政治への参加はともかくとして、その行政機能の内容も地域住民生活の福祉を図ることを直接の目的とするものが多く、また、国政のそれと比べると政治的色彩も薄い地方公共団体の政治・行政についてさえ、これに参加する機会が与えられていない現実は不当にすぎるとの意見が出てくるのも一面もっともなことと考えられないではない。しかし、すでに説示してきたとおり、少なくとも憲法上は右のような外国人に対しても右参政権は保障されていないといわざるを得ないし、また、仮に右の者に参政権を付与することが憲法に違反しないとの立場を採り得るとしても、これを付与するか否かは立法政策の問題にすぎないというべきである。

5 憲法14条との関連について
[32] 憲法14条は、すべての国民は、法の下に平等であると規定している。この規定は、その性質上、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても類推されるべきものであるが、右のとおり、憲法上、日本国籍を有しない者については、そもそも選挙権が保障されていないのであって、日本国籍を有しない者について、選挙権を認めないからといって、そのことが右規定に違反するということはできない。

6 地方自治法11条、18条、公職選挙法9条2項所定の「日本国民」
[33] 地方自治法11条、18条、公職選挙法9条2項は、地方公共団体に関する選挙の選挙権を有する者の要件として、「日本国民」であることを挙げている。原告らは、右「日本国民」には、日本国籍を有しない日本国内における定住者も含めなければならないと主張するが、原告らが右主張の論拠とする憲法の解釈を採用することができないことは、すでに述べてきたとおりである。

定住外国人地方選挙権訴訟 第一審判決

正直に言います。
最高裁判所のものより理解しやすい(w


重要なのは 25,27,28 でしょうか。

  1. 参政権は「国家」が前提となるため、無条件に保障される権利とは言えない。よって、権利の性質から政治参加は国家の構成員に帰属する
  2. 参政権は「国民」固有の権利であるとしてあるが、これは問題とは言えない
    1. これは憲法の基本原理「国民主権」に基づく
    2. 国家の構成員は国籍法で定められ、日本は血統主義を基本としているが、これらが憲法のほかの部分と調和していないとは言えない
  3. よって憲法により参政権が保障されているのは「国民」「日本国籍を有する者」に限られる
    1. 国民以外、定住外国人には、憲法上、参政権が認められていない。

また、29 は

  1. 憲法93条の「住人」は、特にその地域の住居者である事を示しているだけであって、「住人」の条件に「国民」が前提となっていると解するべきである

と言うあたりでしょうか。

これらを理由に

という結論を出しています。


さて、ここで地方判決の 31 段に面白い一文があります。

仮に右の者に参政権を付与することが憲法に違反しないとの立場を採り得るとしても、これを付与するか否かは立法政策の問題にすぎないというべきである。

地方判決では「仮に与えることが憲法に違反しないと言う立場を採り得るとしても」とあります。
つまり「立法措置でもって外国人参政権法を作る=憲法違反ではない」と『仮定』しているだけ、違法かどうかは判断していないよと言う立場です。
このことが何を意味するかですが、最高裁判所では憲法 15 条の「国民固有の権利」の固有について考えたのか?と言う疑問が浮かぶからです。



ここでもう一度最高裁判所の判決に戻って読んでみます。しかし、最高裁判所の判決のどこにも「固有」に対して考慮した形跡は見られません。
「住人(93条)」とは「国民(15条)」のことであって、「憲法上保障されていない」が主文理由(本論)です。


ここで最高裁判所の傍論をもう一度引用します。
読みにくいので、ある程度編集します。

[2] このように、憲法93条2項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものとはいえないが、

  • 憲法第8章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、
    • 住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、
  • 我が国に在留する外国人のうちでも
    • 永住者等であって
    • その居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、
  • その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、

法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、
憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。

しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、

このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない。

以上のように解すべきことは、
当裁判所大法廷判決(

  • 前掲昭和35年12月14日判決、
  • 最高裁昭和37年(あ)第900号同38年3月27日判決・刑集17巻2号121頁、
  • 最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日判決・民集30巻3号223頁、
  • 最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日判決・民集37巻3号345頁

)の趣旨に徴して明らかである。

ここで問題なのは、なぜ『憲法上禁止されていないと解するのが相当』なのか?です。
そのための最高裁の思考ルートをたどるには

以上のように解すべきことは、
当裁判所大法廷判決(

  • 前掲昭和35年12月14日判決、
  • 最高裁昭和37年(あ)第900号同38年3月27日判決・刑集17巻2号121頁、
  • 最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日判決・民集30巻3号223頁、
  • 最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日判決・民集37巻3号345頁

)の趣旨に徴して明らかである。

これらの文書が必要です。
が、残念ながらこれらの判決について、私にはポインタの先がわかりません(−−;;
と言うわけで、最高裁判所の思考がなぜこのようになっているのか?がわからないので、ここに潜む問題を思考できません。


ただしわかっていることが一つだけあります。
それは、この最高裁判決内では、憲法 15 条の『固有』についての考察が、「憲法上禁止されていないと解するのが相当」としている部分にも読めないということです。
もちろん最高裁の裁判官がそのような見落としをするとは思えませんが、少なくとも「固有」についての考察が一切現れていないのは、反対派として見過ごせない部分です。

この部分について、前例となる判決でどのように触れられているのかを知りたいところではあります。

まとめ

件の最高裁判決は「参政権は日本国民にのみ憲法で保障されたものである」ですので、これについては覆すことは無理です。憲法改正しない限り。
したがって、たとえ外国人に参政権を与えたとしても、それは憲法で保障したものではないことは確定しています。昨日読み込んだ通りに。


しかし「外国人参政権憲法15条にある国民『固有』の権利を侵しているため、憲法違反である」と言う判決はどこにもありません。件の最高裁の訴えの論理学的に裏であるため、論理的に証明されていないのです。

むしろ件の最高裁判決では、司法としては『憲法上禁止されていないと解するのが相当』と考えています。

最高裁判所がこのように考えたのが「なぜか?」と、「その思考に問題は無いか?」と言うのは、憲法解釈による「違憲かどうか」を導くためには、必要な手順だと考えます。
そのための判決はどこを探せばよいのかわからないので途方ですが。


以上。
反対派として判例憲法を用いて論理構成を行うためには

  • 憲法 15 条にある国民「固有」の権利であるとする『固有』に対して違憲である

と言う部分で攻めるのが正道です。
しかし、この論理に穴が無いかを調べる必要があり、そのポインタは

以上のように解すべきことは、
当裁判所大法廷判決(

  • 前掲昭和35年12月14日判決、
  • 最高裁昭和37年(あ)第900号同38年3月27日判決・刑集17巻2号121頁、
  • 最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日判決・民集30巻3号223頁、
  • 最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日判決・民集37巻3号345頁

)の趣旨に徴して明らかである。

にあります。
そして最高裁の傍論に穴があれば、「憲法違反の疑いが濃い」として攻めることが出来ます。傍論は主文ではない思考の筋道でしかないので。


というわけで、誰が URL ください(TT)

おまけ

これがちと面白いな。

旧西ドイツでは、一部の州で、自治体レベルの選挙権をドイツ国籍を有しない外国人に認める立法がされたところ、1990年10月31日、ドイツの連邦憲法裁判所は、右立法は、基本法に反し、無効であるとの判決をした。なお、ドイツは、国籍について、血統主義を採用している。

定住外国人地方選挙権訴訟 第一審判決

日本も血統主義です。