もうちょっと調べてみてた

一つ前(d:id:vid:20101229)にあるこれ。
店内の漫画を「自炊」するレンタルスペースが仮オープン、裁断済み書籍を提供、ネット上は懸念の声多数
自炊の森@本の電子化専門店in東京秋葉原 (@jisuinomori) | Twitter
「店内の漫画を「自炊」するレンタルスペース」にマンガ家・ファンが騒然 - Togetter
自炊の森(店内の漫画を自炊するレンタルスペース)の公式アカウントからの、著作権への法解釈について - Togetter
「自炊の森」問題 - Togetter
他にも増えてるね。
店内の本を電子書籍化して持ち帰れる店「自炊の森」がプレオープン。ネット上では著作権に関する議論で大騒ぎ。 | ギズモード・ジャパン
赤松健氏:「自炊の森」に恐れている事 - Togetter
すでに提供は一度「止めて」いるらしいんだけど、法的な「言い訳」がどーしても気になるので、もう少し探してみてます。
 


で、この辺りの話
http://twitter.com/jisuinomori/status/19075483773706240

当店のサービスの要点は、利用者ご自身が自分の体を使って自炊(スキャン)する、という点です。著作権法で定められている私的複製の要件として、これが求められるからです。
2:02 AM Dec 27th webから
jisuinomori

http://twitter.com/jisuinomori/status/19075483773706240

http://twitter.com/jisuinomori/status/19076129025425408

これは良くある誤解なのですが、私的複製をする為の条件としてオリジナルの本を自分で買う必要は無いのです。例えば、図書館内で設置されているコピー機を使って複製する行為も、友人から書籍を借りて複製する行為も法的に全く問題有りません。著作権法第三十条に定得られている私的複製です。
2:04 AM Dec 27th webから
jisuinomori

http://twitter.com/jisuinomori/status/19076129025425408

http://twitter.com/jisuinomori/status/19076763627823104

また、店内で本を来店者にアクセスさせる行為は、あくまで閲覧行為であって、これもまた著作権法上の貸与権条項には抵触しないのです。店から本を持ち出してはじめて貸与となります。
2:07 AM Dec 27th webから
jisuinomori

http://twitter.com/jisuinomori/status/19076763627823104

 
この辺りの言い分がどーにも臭いのは前に書いた通りなのですが、そのあとも「私的複製」の範囲について調べてました。
で、これ。
判例:企業の内部的利用と「私的使用」
判例そのものはこちら
昭和48年 (ワ) 2198号 |著作権判例データベース
重要部分はここ

原告の請求の原因四の事実に対する被告らの抗弁
被告東宝舞台は、山本産業から本件舞台装置の製作を請け負つたものであるところ、その後昭和四五年二月頃、舞台据付個所調査のため、韓国政府文化広報部担当者から、同所の施工状態を示す図面として、第一設計図と内容が同一で、すでにオスロツクの検印のある図面を借り受けたが、その際、右舞台据付個所に関する自社の参考資料として使用することを目的として、右図面を複製した。次いで、被告富士工業もまた、その頃、自社の保存用資料として使用することを目的として、右図面を複製して、保存するに至つたが、その際、その作成名義を被告富士工業とした。なお、被告富士工業は、その後昭和四七年頃、韓国政府から本件舞台装置のどん帳製作工事等を請け負つた丸昌に対し、右複製図面を貸与したことがあるが、これは、著作物の利用にはあたらない。
以上の次第であるから、被告らが第一設計図を複製したものであるとしても、被告らは、私的使用のための複製をしたのであるから、その複製について、原告の許諾を得る必要はない。

訴えられた側が、「これは私的利用に当たるために問題ない」と言っています。
しかし、判決は

そこで、被告らの抗弁について、検討するのに、被告らは、第一設計図の複製図面は被告らにおいて、自社用資料として、使用する目的のものであつたから、その複製については、原告の許諾を得る必要がない旨主張する。ところで、著作権法第30条によれば、著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合には、その使用する者が複製することができる旨が規定されているが、企業その他の団体において、内部的に業務上利用するために著作物を複製する行為は、その目的が個人的な使用にあるとはいえず、かつ家庭内に準ずる限られた範囲内における使用にあるとはいえないから、同条所定の私的使用には該当しないと解するのが相当である。
しかして、本件においては、すでに判示したところからすれば、被告らは、会社における内部的利用のために第一設計図の複製をしたことが明らかであつて、その複製行為は、同法第30条所定の私的使用には該当しないから、原告の許諾を得る必要がないということはできない。したがつて、被告らの抗弁は、理由がない。

として私的利用を否定しています。
 

ここで重要なのは
・業務上利用するための複製行為である
と言うことでしょう。
今回の自炊の森も「営利のための業務上利用としての複製行為」であるため、「私的利用」の範囲とは『言えない』ことが、この判例により確定と言えます。

カラオケ法理

カラオケ法理に触れてる人も居るので、そちらも検証してみましたが……
著作権の間接侵害(2)カラオケ法理のポイントは「管理・支配の要件」「営利目的の要件」 | 日経 xTECH(クロステック)

1.最高裁判所の判決(クラブキャッツアイ事件)
 カラオケクラブで客が著作権者の承諾を得ずにカラオケを使って楽曲を演奏すると,著作権の支分権の一つである演奏権を侵害することになります。このとき演奏権侵害の主体が,カラオケの場所や設備を提供しているクラブなのか,それとも実際に歌唱しているクラブの客なのかが問題になります。クラブキャッツアイ事件において,最高裁判所は以下のように判示し,実際に歌唱している客ではなく,著作権法の規律の観点からはクラブが侵害行為の主体となると判断しました。
 この判決では,「1.客はクラブ(=上告人)らの従業員による歌唱の勧誘,クラブらの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲,クラブらの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて,上告人らの管理のもとに歌唱」しているという点(以下「管理・支配の要件」とする),「2.クラブ(=上告人)らは客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ,これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し,かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していた」という点(以下「営利目的の要件」とする)を重視して,著作権法の規律の観点から,クラブが侵害行為の主体となると判断しました。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20080617/308428/

このことから、著作物の「複製行為の主体」は自炊の森の客ではなく、「自炊の森」自体が行っていると言える……と言うだけの意味でしか無いですね。
その場合、結局「個人または家族に準ずる範囲」『外』であるため、30条から外れてアウトです。

結局のところ

結局のところ、「私的利用」の範囲として重要な
・営利目的の複製では無い
・個人または家族に準ずる範囲の複製では無い
の2点がどうしようもなく「自炊の森」からは外れます。
よって、カラオケ法理を持ち出しても、違法であると言う判断から外れるものではありません。

1点だけ問題が残る

で、ここまで「違法だ」と断言しておきながら、1点だけ問題が残りました。
誰が書いていたかは忘れたのですが、電子複製の場合は著作権法では「電磁的記録」などときちんと書くために、今回のものは「法の対象外となっている」ために「合法」と言う言い分です。
確かめてみました。

法文は必要部分のみ抜き出しています。
http://www.cric.or.jp/db/article/a1.html

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。

確かに、「複製」とは「有機的に再製」する事を指すと明確に書かれているため、「無機的に記録」する場合は『複製』に当たらない可能性が高いです。
 

では本当に問題ないのでしょうか?
条文を読み込みました。

(複製物の目的外使用等)
第四十九条 次に掲げる者は、第二十一条の複製を行つたものとみなす。
  三 第四十七条の三第一項の規定の適用を受けて作成された著作物の複製物(次項第二号の複製物に該当するものを除く。)若しくは第四十七条の四第一項若しくは第二項の規定の適用を受けて同条第一項若しくは第二項に規定する内蔵記録媒体以外の記録媒体に一時的に記録された著作物の複製物を頒布し、又はこれらの当該複製物によつてこれらの当該著作物を公衆に提示した者

どうもこれにあたりそうです。ちょっと条文を変形します。

  • 第四十七条の三第一項の規定の適用を受けて作成された著作物の複製物(次項第二号の複製物に該当するものを除く。)若しくは
  • 第四十七条の四第一項若しくは第二項の規定の適用を受けて同条第一項若しくは第二項に規定する内蔵記録媒体
  • 以外の記録媒体に一時的に記録された著作物の複製物
  • を頒布し、
  • 又はこれらの当該複製物によつてこれらの当該著作物を公衆に提示した者

(プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等)
第四十七条の三 (以下略)

(保守、修理等のための一時的複製)
第四十七条の四 (以下略)

まず、47条3はプログラム実行時にメモリ内に行われる複製は「著作権で言う複製ではない」と言うものです。2項もあるのですが、バックアップは本体を持っている時のみ認めるというものです。
次に、47条4は要するにHDDがぶっ壊れた時に、サルベージのために一時的にデータを記録する行為です。
「この二つの行為目的のための内臓記録媒体への複製」『以外の記録媒体』に対して「一時的に記録」された「記録媒体上の複製物」を、「頒布」もしくは「公衆に提示」する行為は『複製』とみなされるということです。

 
今回の自炊の森の場合、「一時的な記録」と言うものは「スキャナ(或いはスキャナを処理するマシン)」の内臓記録媒体に行われます。
これを「不特定多数に営利として頒布」しています。
よって、30条(私的利用)、あるいは21条(複製権)に「電磁的記録」としての記述が無くても、当該行為を『複製』とみなすことが可能であると考えてよい、と私は考えます。
したがって、何度も出てきますが30条から除外されているため、アウトとなります。

一応31条も

それから、図書館を例に挙げてるのが何度かありましたので、図書館の法文を上げておきます。

(図書館等における複製)
第三十一条 国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この項において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
  一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合
  二 図書館資料の保存のため必要がある場合
  三 他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合
2 前項各号に掲げる場合のほか、国立国会図書館においては、図書館資料の原本を公衆の利用に供することによるその滅失、損傷又は汚損を避けるため、当該原本に代えて公衆の利用に供するための電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第三十三条の二第四項において同じ。)を作成する場合には、必要と認められる限度において、当該図書館資料に係る著作物を記録媒体に記録することができる。
(平二一法五三・1項一部改正2項追加)

明確に「その営利を目的としない事業として」と言う部分で「自炊の森」は否定されるために、図書館云々は言い訳として使えません。

まとめ

以上、著作権法文の考察により、やはり自炊の森の「裁断済み書籍の提供」は「違法である」と断言してよいと、『私は』考えます。